Healthcare Starup Life

米国を中心としたヘルスケアスタートアップ関連の話題について、メディア記事をベースに備忘録的に書きます

治療記録の取得代行スタートアップのPatientBankが$2.2Mの資金調達

個人が医師や保険会社に自らの過去の治療記録(Medical record)を提出する際の煩雑な手続きを代行するサービスを提供するPatientBankがGeneral Catalyst、Khosla Ventures等から$2.2Mの資金調達を実施しました。

PatientBank gets $2.2M for online medical record sharing system | MobiHealthNews

 

同社はYale大学でコンピューターサイエンスと経済学を学んだPaul Fletcher-Hill(現CEO)等が会社を立ち上げました。Y Combinatorを今年卒業しており、サンフランシスコを拠点としています。

 

米国においては、個人が医師、保険会社、弁護士等に自らの過去の治療記録を提出する際には、過去治療を受けた病院等に自ら問い合わせて、何度もファックスや電話等でやり取りをした上で、記録を受け取る必要があります。手間もかかる上に、そのプロセスにはおおよそ30日程度を必要としており、個人にとっては煩雑な作業になっています。

 

同社は、患者から医療機関名と電子サインを受け取り、それ以降の作業をすべて代行するサービスを提供することで、個人がこれらのプロセスから解放されることを目指しています。ユーザーは、一つのデータを得るために$9.99を支払うことで、デジタル化された治療記録を受け取ることができます。記事によると、同社は既に11000件以上の治療記録について2500の医療機関への問い合わせを既に行ったとのことです。同社は将来的には、各医療機関で異なる運用がされている治療記録の照会プロセスを標準化していくことも目指しています。

 

また、同社はこれまでの医療機関への治療記録照会の結果を踏まえ、7項目の基準(照会への回答件数、回答時間等)で各医療機関のスコアを公表しています。このサービスが広がっていくと、各医療機関においてもスコアを上げるインセンティブが働いていくのかもしれません。

Hospital Scores | PatientBank

 

医療機関サイドの手続きが従来の方法(電話、Fax等)である限り、なかなかスケールさせていくことが難しい事業なのかもしれませんが、既に11000件の治療記録照会を行っているように、現時点でも一定のニーズがある事業ですし、各医療機関での治療記録照会プロセスの標準化につなげていけると一気にスケールしていくかもしれません。いわゆる「医療ど真ん中」の医療×ITのサービスではなく、少し周辺から医療関係の効率化に取り組んでいくサービスなので、今後の行方に個人的には関心が高いです。

 

Founders Fund等が投資していた抗がん剤スタートアップのStemcentrxがAbbVieに最大100億ドル以上の評価額で買収

以前の記事で紹介した抗がん剤スタートアップであるStemcentrxが最大$10B(100億ドル)以上の評価額でAbbVieに先月(4月)買収されました。

 

$10B以上といわれる評価額の内訳は、$5.8Bが現在のStemcentrxの価値に対して支払われ、$4Bは今後の認可プロセスや臨床成果等のマイルストーンに応じて支払われることになっているようです(その他に、$400M相当のStemcentrxが保有するキャッシュ等で計$10.2B)。

 

前回の資金調達の際の評価額が$3Bか$5Bと言われているので、無事評価額を上げてExitできたようです。冷え込み始めているといわれているスタートアップまわりの資金調達ですが、Stemcentrxは高い将来性が見込まれたということでしょうか。AbbVieのCEOによれば、最も治験が進んでいる製品であるRova-Tは2018年の上市を目指しており、年間最大$5B(50億ドル)の売上を見込んでいるとのこと。AbbVieは昨年$21B(210億ドル)で抗がん剤のパイプラインを有するPharamacyclicsも買収しており、抗がん剤分野での積極的な買収戦略を取っています。

 

ちなみに、Bloombergの記事によると、Peter Thielが設立したFounders Fundは今回のExitで$1.7Bを手にしたと言われており、(FacebookのIPOやDeepMindのM&A等の案件を超えて)同ファンド最大のExit案件となりました。

Founders Fundはほとんどバイオ分野での投資実績はなく、Stemcentrxへの投資を担当したパートナーもGoogle出身のエンジニアだったようです。彼がStemcentrxのCEOと会った後、オンコロジー分野の専門家を6人雇って、Stemcentrxの技術評価を行い、投資を決定したようです。

バイオ分野は投資額も大きい分、リターンも大きいので、今後はこのようなテック系スタートアップに投資してきたVCが専門家を雇いながらバイオ分野への投資を拡大するスタイルが増えてくるかもしれません。

 

GV(Google Ventures)などから4000万ドルを調達したメンタルヘルス関係スタートアップのQuartet

先月、GV(前Google Ventures)をリードインベスターとして4000万ドルのシリーズB資金調達を発表したヘルスケアスタートアップのQuartetについて調べてみました。

 

 

Quartetは精神疾患を持った患者の治療が円滑に進むための患者、プライマリーケアプロバイダー、行動療法の専門医をつなぐためのプラットフォームを提供しています。

対象としては、うつ病やドラッグ、アルコール依存症などの精神・行動関係の疾患が挙げられています。行動療法は専門性が高く、専門医の中でも治療が細分化されている上に、医師の絶対数も不足しており、患者が適切な治療を受けることが難しい環境にあります。同社のサービスは、患者の状況に応じた最適な専門医とのマッチングや、エビデンスに基づいた治療ガイドライン等の医師への提供を通じて、治療効果を高めることを目指しています。また、患者は無料で専門医とオンラインで相談できたり、治療プログラムを受けることができるようです。

 

 

同社は2014年に、Harvard Kennedy School(公共政策大学院)出身で、約10年間投資会社で投資や投資先企業を支援してきたArun Gupta氏によって立ち上げられました。ちなみに、同氏はUnicornであるPalantir(ビッグデータ解析のスタートアップ)のアドバイザーにも就いています。

2015年3月には、ヘルスケア・金融関係のテクノロジースタートアップへの投資に特化したVCのOak HC/FTをリードインベスターとして700万ドルを資金調達しています。OAK HC/FTの他にも、ヘルスケアスタートアップに多数投資しているPolaris PartnersやF-Prime Capital Partnersからも投資を受けています。

 

マネタイズはざっと調べた限りではよくわかりません(すみません)。現時点では患者は無料でシステムを利用できるようなので、行動療法専門医や保険会社(早期の的確な治療が医療費の削減につながるという理屈)などから利用料か登録料を徴収している(か将来的には課金する)のではないかと思います。

 

同社はデータサイエンスやエンジニアリングに力を入れており、GoogleやAmazon出身のエンジニアや、医療分野のデータサイエンティストなどの人材採用を強化しています。従来の治療方法や専門医への紹介の仕組みをデータ解析等を通じて最適化させていくことが差別化につながるということでしょうか。

 

米国のようにプライマリーケアと専門医が分業しているからこそ成立しているモデルだとは思いますが、精神疾患分野は比較的専門性が高い分野かと思いますので、十分応用可能なモデルかと思います。

Healthcare Unicorns 一覧

ヘルスケア関係のユニコーンについて、CB Insightsから抜粋しました。

 

144社あるユニコーンの内、ヘルスケア関係のユニコーンは全部で10社あります。内9社はアメリカをベースとしており、残り1社は中国のGuaHao。

 

最も高い評価額を得ているのは、90億ドルの評価を得ている最近血液検査技術に疑義が呈されているTheranos。この中では最も低い評価額なのは、10億ドルの評価を得ている個人向け遺伝子検査サービスを提供する23andMeでした。

 

評価額が10億ドルを超えたのは、いずれの企業も2014年以降で、最も最近ユニコーンの仲間入りしたのはGuaHaoです。

 

各企業に投資している主な投資家は様々ですが、NEA(Intarcia Therapeutics、23andMe)、Founders Fund(Stemcentrx、Zocdoc)、Khosla Ventures(Zocdoc、Oscar Health Insurance)が2社で名前が挙げられています。

 

引き続き各社について調べていきたいと思います。

 

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出典:CB Insightsより作成

Healthcare Unicorn: Stemcentrx

Unicornと言われる時価総額$1B以上のスタートアップについて、ヘルスケア分野でどのような企業があるのか調べています。

 

その中の一つがStemcentrx。ゴールドマンサックス出身のBrian Slingerland(現CEO)と、スタンフォードで免疫関係のポスドク研究者をしていたScott Dylla(現Chief Scientific Officer)が2008年にサンフランシスコで起業しました。

 

直近の資金調達は2015年9月で、$3Bの評価額(※)でFidelity Investmentsをリードインベスターとして$250Mを調達しています。その他にはFounders Fund(ピーター・ティールが立ち上げたファンド)やARTIS Ventures、Sillicon Valley Bankから投資を受けています。

CB Insightsのデータに基づく。WSJの記事によると$5Bの評価額という情報もあり。

同社は、がん幹細胞をターゲットとした5つの新薬パイプラインを有する企業で、同社のWebサイトによれば、同社の技術は様々な種類のがんに適応可能ということです。

 

同社のWebサイト によると、現在3製品について治験中で、小細胞肺がんをターゲットとした1製品(Rova-T)がPhase 1a/1b終了、2製品がPhase 1aという状況のようです。

 

通常の抗がん剤は、急激に増殖するがん細胞を標的としており、ほとんど増殖しないがん幹細胞には効果がほとんどないとされていますが、がん幹細胞をターゲットとした治療薬を作ることができれば、がんの根本治療が可能になるということかと思います。さらに、様々な種類のがんに適応可能なので、非常に大きなポテンシャルを持っている、ということかと思います。(素人なので、いい加減なことを書いているかもしれません)

 

この段階で評価額がこれだけ高いのは素人的には驚きですが、(オープンにはされていないですが)治験が順調なんでしょうか。WSJの記事 によると、この$3Bとも$5Bとも言われる評価額は、今年5月にアッヴィに$21Bで買収されたPharmacyclicsという血液関係の抗がん剤のパイプラインを持つ企業を参考にしているとのこと。

 

一般的に治験にかかる費用は製薬企業の研究開発費の多くを占めていますが、同社のように3製品を並行的に治験を進めているとキャッシュがこれからもさらに必要になると思われます。バイオ専門のVCや製薬企業以外からこれだけ資金調達しているのは新しい傾向だと思うので、同社の今後の展開に注目したいと思います。

Rock Healthの投資先ピックアップ

サンフランシスコにある、ヘルスケア分野に特化したVC、アクセラレーターのRock Healthが、投資先について何社かピックアップしていました。

 

rockhealth.com

 

Rock Healthは、ハーバードビジネススクール卒業生でインテルやアップルで働いていた経験を持つHalle Teccoと、医師で同じくハーバードビジネススクール卒業生のNate Grossが2010年に立ち上げました。

 

シード、アーリーステージのヘルスケアスタートアップに投資しており、CrunchBaseによるとこれまで80のスタートアップに投資し、6つのExitに成功しています。

 

Chrono Therapeutics (Rock Health 投資額:$0.1M)

パッチ式のデバイスとコーチングのためのアプリを使って、ユーザーの禁煙を手助けするサービスを提供。同社のWebサイトによると、Beyond Medicineというコンセプトで投薬治療を超えたヘルスケアサービスを生み出していくことが同社のミッションのようです。

 

Honor  (Rock Health 投資額:不明)

高齢者の在宅介護を支援するサービス。オンライン上でヘルパーの予約が出来て、価格は1時間25ドル~でサービスを提供。現在はサンフランシスコ近辺のベイエリアのみで利用可能。A16Zも同社に投資(マークアンドリーセンはボードメンバー)。

 

Collective Health  (Rock Health 投資額:$38M)

企業向けに健康保険を提供。Palantirやzendeskなどが主な顧客。Founders Fund、Google ventures等から投資を受けている。

 

Caeden  (Rocck Health 投資額:$1.6M)

高性能な心拍数測定が可能な活動量計を内蔵したスタイリッシュなブレスレットを199ドルで販売(現在は予約受付中の段階)。ヘルスケアとは関係ないが、この他にスタイリッシュなヘッドフォンを販売。

 

Arsenal  (Rock Health 投資額:不明)

医療機関向けに診察スケジュールシステムを提供。機械学習を用いて、患者のno showや直前のキャンセルを予測。

 

1DocWay  (Rock Health 投資額:$1.7M)

患者向けに、 精神疾患の専門医にオンラインで相談できるサービスを提供。ヘルスケアサービスを提供するGenoa社によって買収。

 

omada  (Rock Health 投資額:$48M)

慢性疾患の恐れがあるユーザーに対して、16週間のオンライン健康管理プログラムを提供。一人ひとりに担当の健康管理をしてくれるコーチがつく他、同じような状況の人々のオンラインサポートグループに入れたり、活動量計やスマート体重計など健康管理に必要なデバイスが提供される。A16ZやNEAなども同社に投資。

 

Aptible  (Rock Health 投資額:不明)

健康管理に関するプライバシールール等を定めたHIPAA法に準拠したデータ管理システムを提供。Y Combinator出身。

 

Benchling  (Rock Health 投資額:不明)

 ライフサイエンス分野のR&D研究者向けにデータ管理等のシステムを提供。こちらもY Combinator出身。A16Zからも投資を受けている。

 

Doctor On Demand  (Rock Health 投資額:$62.75M)

ユーザーが オンラインで医師に相談できるサービスを提供。通常の相談であれば、1回40ドルという価格設定となっている。A16Zや23andMe等からも投資を受けている。

 

Evidation  (Rock Health 投資額:$6M)

データを用いて治療成果を予測するシステムを提供。元々はGE VenturesとStanford Health Careのコラボレーションプロジェクト。

 

ヘルスケアスタートアップのグローバル市場での資金調達のトレンド

2014年のヘルスケアスタートアップの資金調達額は70億ドルであったのが、2015年は(まだ終わってないが)58億ドルとなっており、ディール数も561件から477件に減少とのこと。

 

背景としてはミッドステージの資金調達件数が減少したことが挙げられているが、1ディールあたりの平均調達額はミッドステージ、レイトステージでは上昇しており、市場全体がmatureになってきているとコメントされている。(アーリーステージの1ディールあたり調達額は変わらず)

 

アクティブな投資家として、トップは10件のディールを行ったGE Venturesがランクイン。その後、Google venturesやkhosla ventures、NEAなどが並ぶが、中国のTencentが8件のディールで5位に食い込んでいる。

 

アクティブな分野としては、患者・コンシューマーエクスペリエンス分野がトップで13億ドル(111件)、ウエルネス分野が12億ドル(54件)、ワークフロー分野が6億ドル(79件)と続く。

 

アメリカ以外のディールを見てみると、中国、インドで比較的大規模な資金調達が行われている。例えば中国では、患者用の診察予約システムや医療機関用のデータベースなどを運営するGuahaoが今年9月に394百万ドルをゴールドマンサックスやテンセントから資金調達している他、インドではオンラインでの医師検索サービスを提供しているPractoがテンセントをリードインベスターに今年8月に90百万ドルを資金調達している(同社は2月にも30百万ドルを調達)。

 

 

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